子どもの貧困政治・制度

「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法①-美しい建前にしないために今するべきこと

こどもの貧困対策事業に関わる学生サポーターの会議(こどもの貧困対策事業に関わる学生サポーターの会議)

2013年に成立した「子どもの貧困対策推進に関する法律」から1年と2ヶ月。

法律に基づき、今後政府として解決に取り組んでいくための基本方針や柱となる施策を示すものとして「子どもの貧困対策に関する大綱」(以下、大綱)を策定し、8月29日に閣議決定されました。子どもの貧困の問題については、多くの方が語られるようになり、徐々にではありますが、社会の認知も高まってきています。

しかし、様々な場所で子どもの貧困についてお話する中で、その認知の不十分さも実感しています。また多くの実践家、専門家の方々の間でも、子どもの貧困問題解決の切り口が多様であることや、立場が違うことにより、この大綱への評価も様々出てきております。そこで今回の大綱の内容や、またここから具体的にどのような流れで具体的な支援が進んでいくのか、そして現状の課題などについて書きたいと思います。

子どもの貧困対策に関する大綱(内閣府ホームページより2014年10月1日現在)

子どもの貧困を解決するために政府が取りまとめた「大綱」って何?

理念としては明文化され、方針も指し示されました。しかし、具体的な方策や国としての姿勢としての予算については、明示されているものの偏りがあるということがポイントです。

もう少し言えば、教育支援の予算はある程度つきましたが、直接的に生活を支える制度やサービスについては新たについていません。むしろ「貧困」に対する施策という点では、生活保護の受給基準を変えたことにより、準要保護世帯が受給できる就学援助の対象から外れた世帯が増え、厳しくなっているのではないかと思われます。

また、現在全国で実施されている無料の生活保護世帯の子ども向け学習支援も国からの予算が大きかったが、それも次年度以降なくなるため、この点でも現在取り組まれている支援事業の継続が危ぶまれるという状況もあります。

多くの方が述べているように、厚生労働省に関する予算はついていないが、文部科学省に関する予算はついたというところでしょう。実際、国費としては同じですから、子どもの貧困にかける予算の総量が増えたが、どの立場で見るかによって、前進、後退、よくわからないという評価になっていると思います。

福祉の制度にはよく総論賛成、各論反対ということが起きます。今回も同様であり、それは支援に取り組んでいる個人、団体がなかなか一枚岩になれず解決へ足枷にもなっているように見えます。

たくさんの理想がつまっている大綱

さて、実際の内容についての話は次回以降に書きたいと思いますが、今回はこれからの動きについて少し。それは各地域でのお話です。

「子どもの貧困対策に関する大綱」の内容については、たくさんの理想がつまっています。その理想の原動力となったのは多くの全国各地で取り組んでおられる実践者のみなさんと、なによりあしなが育英会の奨学生たちの思いでした。2014年1月に施行された法律も中身があるわけではありませんので、具体的に何をすべきなのかをあしなが育英会の若者たちはユースミーティングという場を設え、政策決定者のみなさんに訴えてきました。

5月のその場では、下村文部科学大臣がその案を受け、自身が所管される文部科学省としての予算をつけました。大綱決定までの検討委員にはスクールソーシャルワーカーも入っており、その必要性をしっかり伝えていただきました。

そして、今回の予算のなかで大きいのは奨学金とスクールソーシャルワーカーの配置です。この結果から見たときに、いかに直接提案ができた部分だけが実現したかがわかるのではないでしょうか?もちろん、既存の制度に関する予算の増額はされていますが、真新しい、直接支援型のものには予算要求まで至っていません。

子どもの貧困対策に関する大綱

絵に描いた餅にしないために

大綱には、冒頭には、下記のような文章が書かれています。

「日本の将来を担う子供たちは国の一番の宝である。貧困は、子供たちの生活や成長に様々な影響を及ぼすが、その責任は子供たちにはない。子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、また、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る子供の貧困対策は極めて重要である。」

政府としては、指針を示し、ひとまず現状できる予算要求しました。もちろん不十分ではあるというご意見も多いことから、このことに関してのさらなる検討や政府への提言は必要になりますが、一方では法律で努力義務とされている都道府県における「対策計画」の策定についても注目していく必要があります。

これまでの制度も含め、最終的には各地域での予算執行になります。この計画が作られない限りは、現実的には個別それぞれの取り組みには予算がついても、その地域で「子どもの貧困」をなくすための総合的な支援にはなりません。

現状では各自治体で単独の計画を策定される予定のところは少なく、現在見直し時期である他の子ども子育て系の総合計画の中に盛り込んでいくというところや、まだ未定となっている自治体が多いようです。ここが無ければそれこそ絵に描いた餅になってしまいます。

村井琢哉 NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。

大綱の理念をカタチにしていく地域や社会のアクション

そのような状況において、大綱成立後に関西や北海道での緊急のアクション、あしなが育英会奨学生を中心とした愛知や、京都でのユースミーティングなど具体的に実効性のある法律、大綱、そして計画、支援事業、制度となるためのアクションが起こっています。

先日、運営にも協力をさせて頂いた京都でのユースミーティングでは、京都府山田知事が単独での対策計画の策定を年度内に実施することを明言されていました。また、栃木県の小山市のような市町村でも貧困撲滅5カ年計画の策定を進めるなど独自の対策も出てきています。(下野新聞:小山市、子どもの貧困「撲滅」へ独自計画)

子どもの貧困問題に限らずですが、福祉問題は地域性というものも色濃く出るものであり、地域特有のものへの対応姿勢を自治体が示すことは重要なことです。ぜひ、各自治体のみなさんはこの流れに乗り、対策計画の検討をいただければうれしいです。

そして、議員のみなさん、各議会で対策計画策定について声を上げてください。なにより地域の方々、支援組織のみなさんは次年度の予算については、すでに議論がはじまっています。今、動かなければ1年、2年と対策が遅れていくことになります。ぜひ、行動を起こしてください。次回以降は、今回の内容そのものについて一つずつご紹介と、課題について数回にわけて書いていきます。

「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法②-支援を「誰に」「誰が」届けるのか?
子どもの貧困対策の動きが、各自治体で少しずつはじまってきました。栃木県小山市では2015年度に重点事業として子どもの貧困対策を予算編成し、事業化に取り組む動きもあります。検討会で議論に上がっているのは「だれに届けるのか」「だれが届けるのか」がわからない状況を打破する方法がないということです。このような社会問題を解決するにあたり、現状を把握することは非常に重要なことです。
「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法③-学習支援と生活支援で解決できるのか?
第3回となる「子ども貧困対策に関する大綱」についてのシリーズです。大綱として一定の指針を示したあとで、争点としてはあまり表にでていない子どもの貧困対策ですが、将来を見据える上では重要であることは変わりません。どこまで踏み込んで実践されるかはこれからの市民からの声次第です。そのためにも、この大綱についても、実現に向けてしっかり議論をしていく必要があります。
「子どもの貧困対策に関する大綱」を読み解き社会に活かす方法④-京都府の子どもの貧困対策計画(中間案)から考える
「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が平成26年1月に施行され、8月には「子どもの貧困対策に関する大綱」が8月に策定されました。この大綱を受け、各自治体では、予算編成・事業計画へと動きはじめています。京都府でも全国に先駆けてこれまでの社会保障政策に子どもの貧困対策の視点も取り入れた京都府子どもの貧困対策推進計画の中間案が公開されました。
Author:村井琢哉
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち

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子どもたちは生まれてくる親や社会(地域や時代)を選ぶことはできません。今の時代は親の自己努力や従来の地域のつながりだけで、子育てが何とかならない時代に突入しています。だからこそ、そのような子どもに責任のない「子どもの貧困」を軽減するために、市民の力を必要としています。NPO法人山科醍醐こどものひろばの子どもの貧困対策事業をご支援ください。

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