子どもの貧困対策の動きが、各自治体で少しずつはじまってきました。前回の記事でもふれた栃木県小山市では、2015年度に重点事業として子どもの貧困対策を予算編成し、事業化に取り組むという動きもあります。(下野新聞:小山市、子どもの貧困「撲滅」へ独自計画)
筆者が活動を行う京都府では、子どもの貧困対策検討会がすでに2回開催され、国の大綱で示された25の指標に対し、京都府の数字を確認することや、実際に最終的にどのような社会を目指すのかというゴール設定の議論を行っています。
検討会を開くまでもなく、現実、どの自治体も、子どもの貧困対策の各項目に適合するそれぞれの施策をすでに実施していたりします。京都府であれば、奨学金の制度は充実している方です。進学意欲があり、制度にしっかりつながることができれば、将来に向けたチャレンジができる状況もあります。
「子どもの貧困」の実態を把握できるのか?
これまでも多様な子ども・子育て施策や教育支援施策、生活保護施策、児童福祉施策といった切り口のなかで、結果的に低所得世帯に暮らす子どもの支援を行っていたというケースがあります。
自治体によっては、全く制度がない場合もあり、国が取り組むべきことと思われていた場合もありますが、何もしてこなかったわけではありません。それにも関わらず、制度がない、知らない、という状況が生まれるのはどうしてなのでしょうか?
検討会でも議論に上がっているのは、「だれに届けるのか」「だれが届けるのか」ということがわからない状況を打破する方法がないということです。このような社会問題を解決するにあたって、その現状を把握することが非常に重要なことだということは、多くの方が理解しています。
しかし、実際にそのサービスを必要としている子どもを把握しきれていないのが現状であり、把握していないからこそ、届け方がわからないという状態になっています。またそれがわからないことによって、事業化自体が難しいという状況にもなっています。
一方で、既存の支援をすでに受けている子どもがおり、その子どもたちは子どもの貧困の施策として支援を受けているのではなく、他のそれぞれの施策の対象として受けています。
個別対処型に施策をうってきた結果、それぞれのニーズ対象者はある程度把握できているので、全施策の合算としてのべ人数は把握できます。しかし、管轄が違うこともあり、実数がわからない、「だれ」というのがわからない状況にあります。
(内閣府ホームページより)
これまでの多くの施策を図のように振り分けると資料としては、上記のようなきれいに一枚のシートになっています。しかし、実際の支援がこのような隙間のない子どもの貧困問題を包み込む網羅的な支援になるわけではありません。
そして、制度があっても申請しなければ得られないのものが多いため、情報をキャッチできない、また情報があっても理解できない対象者も多く、活かしきれていない状況があります。
スクールソーシャルワーカーとは?
だれが届けるかということと、課題を発見するという点においては、今回の大綱では、スクールソーシャルワーカーの存在を大きく打ち出しています。
スクールソーシャルワーカーは、子ども個人とその取り巻く環境のミスマッチによって問題が生じていると捉えます。問題解決に、個人と環境の双方を視野に入れ、状況に応じて個人への関わりや、環境の改善に取り組みます。
また、個人と環境の間を取り持ち、関係の仲介・調整なども行います。さらに、個人が必要な資源を得られるように、代弁(アドボカシー)していくことや、資源を新たに創出するという開発的な力も発揮します。複雑な問題を多様なアプローチによって解決に結びつけていきます。
その点では、子どもの内面に意識を向け、学校での子どもが抱える問題などの対応に、専門的な知識に基づいたカウンセリングという方法を用いて、教育・心理相談に取り組むスクールカウンセラーとは担う役割が違います。
社会問題を学校に押し込めていないか?
「スクール」という言葉からもその解決に取り組む舞台を学校と位置づけています。指標の多くも進学率などが多く、教育的支援を中心にというのが今回 の内容で色濃くなっています。義務教育というだれもが通る学校という場は、子どもがどういう状況なのかを把握するには適しているため、その後、福祉的支援を導入にしてもよい現場にはなると思います。
しかし、学校をプラットフォームにして地域のチカラをというのは、社会の問題を学校に押し込めた感が否めません。
あくまで社会や地域という空間の方がサイズが大きいわけですから、社会や地域が子どもの貧困問題を解決する上で、学校と子どもにどう向き合うかという視点が必要なのだと感じています。そうでなければ、学校の負担がさらに増え、多くの子どもたちにその負担のしわ寄せがいくことになるでしょう。
むしろ、地域が学校に押しつけてきた責任を引き受け直すことからはじめないといけないのかもしれません。また、スクールソーシャルワーカーには、学校と地域、そして社会をどう結びつけ、解決していくのかという調整もふくめた包括的なスキルが求められてきます。
「見えない課題を発見する」というだれに届けるかということと、数ある支援をどう選択し届けるか、それらを組み合わせつつ、実際に解決に向かうための支援を行うのかを学校だけでなく、地域からのチカラもつなぎ取り組むことが必要になります。そこを担うのがスクールソーシャルワーカーです。
(商店街と連携して行っているこどもフェスタでの一幕)
1万人のスクールソーシャルワーカーを育成するのは容易ではない
目標では現在、約1,000人いるワーカーを5年後に1万人(全国の中学校の数)まで増やす計画が掲げられています。上記のような獅子奮迅の活躍をしてくれれば大きな成果を出すことは可能かもしれません。しかし、求められている役割は非常に多く、複雑であります。
そこまでできる専門職を育成するのは容易ではありません。その意味では、1人のスクールソーシャルワーカーの力に頼るというのではなく、地域の実情に合わせてワーカーや団体・組織がその役割を共に担っていくことが大切なのだと感じています。
今回は、教育的支援の中でも学校をプラットフォームにということとスクールソーシャルワーカーの配置について触れました。次回以降は、学習支援と生活支援について書いていきます。
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク、子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち
子どもの貧困対策事業をご支援ください!:NPO法人山科醍醐こどものひろば
「ひとりぼっちの夜の家で育つ子どもの気持ちを知っていますか?」 あなたの力で寂しい夜を過ごす子どもにほっとする一夜を。
子どもたちは生まれてくる親や社会(地域や時代)を選ぶことはできません。今の時代は親の自己努力や従来の地域のつながりだけで、子育てが何とかならない時代に突入しています。だからこそ、そのような子どもに責任のない「子どもの貧困」を軽減するために、市民の力を必要としています。NPO法人山科醍醐こどものひろばの子どもの貧困対策事業をご支援ください。