ひとり親

約7割のひとり親家庭が養育費をもらえていない現状とは?-養育費を取り決めても約束が守られず減額や不払いに

養育費

全国にどのくらい「ひとり親家庭」がいらっしゃるかご存知でしょうか。

厚生労働省が実施した「ひとり親世帯等調査結果」によると、2016年時点で母子世帯は約123万世帯、父子世帯は約18万世帯でした。

ひとり親世帯になった理由は、母子世帯の約80%が離婚、約8%が死別、残りの約10%はおそらく未婚状態で親になった割合だと推察できます。つまり、離婚をしてひとり親になる割合が圧倒的に多い現状があります。

離婚にあたって取り決める必要があるのが「養育費」です。養育費は、「離婚して親権がなくなった親も支払い義務がある」とされています。では、この養育費は、十分に支払われているのでしょうか。子どもを監護・教育する親のもとへ行き渡っているのでしょうか。

本記事ではまず「養育費とはそもそも何か?」という前提を解説しつつ、養育費受け取りの実情に関するアンケート調査を読み解いた上で、課題を整理していきたいと思います。

養育費について

養育費とは何か?

法務省のページを参照すると、以下のように説明されています。

養育費とは、子どもの監護や教育のために必要な費用のことをいいます。一般的には、子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する費用を意味し、衣食住に必要な経費、教育費、医療費などがこれに当たります。子どもを監護している親は、他方の親から養育費を受け取ることができます。なお、離婚によって親権者でなくなった親であっても、子どもの親であることに変わりはありませんので、親として養育費の支払義務を負います。

子どもが生まれてから経済的・社会的に自立するまでには、一定の費用がかかります。その費用の支払いは監護している親だけではなく、離婚して親権がなくなった親にも義務がある、とされています。離婚しても、子どもにとって親は親であることには変わりないからです。

養育費は、どのように取り決めるのか?

養育費を当事者間の協議で決めきれない場合、離婚後に家庭裁判所へ「家事調停」、その中の「養育費請求調停」を申立てる必要があります。対象となる子ども1人につき1,200円の収入印紙、連絡用の郵便切手約1,000円分を負担し、申立て時や手続き進行中に必要な書類を揃え、提出します。

養育費用の算出には、東京・大阪の裁判官の共同研究の結果作成された「養育費・婚姻費用算定表」が参考資料として広く使われています。

子の人数(1~3人)と年齢(0~14歳と15~19歳の2区分)に応じて表1~ 9に分かれており、養育費を支払う側(義務者)の年収と、支払を受ける側(権利者:未成年の子がいる場合には、子を引き取って育てている親)の年収を照らし合わせ、算出します。

例えば、子どもが1人、権利者の年収が250万、義務者の年収が500万だった場合、子ども1人あたり養育費は4~6万円になります。子どもの人数、権利者と義務者の年収によって、養育費は変動します。

一度取り決めた養育費であっても、その後に事情の変更があった場合(収入が増減した場合や子が進学した場合など)には、養育費の額の変更を求める調停(審判)を申し立てることができます。

養育費の受け取りの実情

では実際に、養育費の受け取りの実情はどうなっているのでしょうか。

ここでは厚生労働省が2016年に実施した「全国ひとり親世帯調査」(以下、同調査)と、2022年1月に結果が発表された、認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンによる「ひとり親家庭を対象とした養育費に関するアンケート」(以下、同アンケート)を参照します。

※同調査は、母子世帯・父子世帯・養育者世帯を合わせた計4006世帯を対象に、同アンケートは、ひとり親家庭のフードバンク「グッドごはん」を利用する「ひとり親家庭等医療費受給者証」を持つ関東1都3県および大阪のひとり親、計882名を対象にしています。

なお、同調査によると2016年の全ひとり親世帯のうち、母子世帯の割合が86.2%、父子世帯が13.2%と圧倒的に母子世帯の数が多いため、本文中では主に母子世帯の結果を引用します。

取り決めをしていない割合は4~5割

まず、養育費の取り決めについてです。同調査によると「養育費の取り決めをしていない」と回答したのは母子家庭で54.2%(平成28年)でした。同アンケートでは東京、大阪の結果が載っていましたが、40%程度が「取り決めをしていない」と回答しています。数値に多少バラつきはあるものの、おおよそ2~3家庭に1家庭程度は取り決めをしていないと見ることができます。

▼全国ひとり親世帯調査:養育費の取り決め状況

全国ひとり親世帯調査:養育費の取り決め状況

▼ひとり親家庭を対象とした養育費に関するアンケート:養育費の取り決め状況

ひとり親家庭を対象とした養育費に関するアンケート:養育費の取り決め状況

現在、もらえていない割合は6~7割

次に養育費の受給状況についてです。同アンケートで受給状況を調べたところ(これは取り決めの有無に関わらず)、東京で「毎月貰っている」が19%、「毎月貰っているが減額されることがある」が7%、「今までに何度か貰えない月があった」が5%でした。つまり、減額や月によりもらえないという事情を含めた上で、比較的定期的にもらっているのは30%程度という結果でした。

逆に「1回も貰えていない」「数回貰ったことはあるが、現在は貰えていない」を合わせると、65%でした。もらっている家庭よりももらえていない家庭の方が2倍以上多いという状況がわかります。

ひとり親家庭を対象とした養育費に関するアンケート

同調査で受給状況について尋ねた質問への回答では、「過去に受けたことがある」「受けたことがない」を合わせると70%程度でした。つまり、現在養育費をもらえていない割合は、同アンケートの結果と近い数値であることがわかりました。

取り決めた金額 > 受け取る金額

次に、実際に受け取っている養育費の金額についてです。同アンケートを見ていきます。

「取り決めの金額」と比較すると、実際に受け取っている金額が明らかに低いことがわかります。取り決めの際は「月~10,000円」の割合は東京・大阪ともに3%であるのに対し、実際の受け取りになるとその割合は22~23%に上昇しています。養育費をもらっていたとしても、当初決めた金額よりも低い金額になっている状況がわかりました。

ひとり親家庭を対象とした養育費に関するアンケート:取り決た養育費の金額

ひとり親家庭を対象とした養育費に関するアンケート:実際に受け取っている養育費の金額

また、同調査も見てみます。「子どもの数別養育費の状況」という項目では、1世帯の子どもの人数別の養育費が載っていました。母子家庭を見ると、子どもが1人の場合は約38,000円と極端に低い金額ではないですが、2人では約48,000円、3人では約57,000円と、子どもが増えるにつれて1人あたりの金額は急激に減っています。塾や習い事など子どもそれぞれにかかる費用のことを考えると、多子世帯ほど苦しい状況に陥ることが推察できます。

全国ひとり親世帯調査:子どもの数別養育費(1世帯平均月額)の状況

「取り決め」「頻度・金額」の2つの壁

ここまで述べた調査結果を踏まえると、子どもの年齢や人数に応じた十分な金額の養育費を貰うために、大きく2つの壁が存在していることがわかりました。

1つ目は「取り決め」の壁です。そもそも離婚後に、養育費についてきちんと取り決められるかどうかが前提となってきます。2つ目は「頻度・金額」の壁です。取り決めたとしても、「毎月受け取っている」という割合はごく少数でした。また取り決めた金額よりも、実際の受け取り金額が少なくなっている現状がありました。

後編の記事では「なぜ、養育費について取り決めないのか?」と「取り決めたにも関わらず、どうして受け取れなかったり、減額されたりするのか?」という視点で、整理していきたいと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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