スウェーデン

生涯学習社会スウェーデンを支える北欧の伝統「スタディーサークル」とは?(中編)-政府が資金を援助!移民や難民の学びも支える

ヨーロッパの中でも突出して高い生涯学習への参加率を誇るスウェーデン。5歳から64歳の成人のうち、過去4週間以内に何かしらの教育や職業訓練をした人の割合は30.1%で、調査に参加したEU加盟国の中でトップです。

スウェーデンの国旗

近年、日本でも推進している「リカレント教育」ですが、スウェーデンの経済学者の提唱した概念です。「リカレント教育」は、基礎教育を終えた後、社会人になってからも必要に応じて自発的に学ぶことを指す言葉ですが、なかなか日本では広がっていないのが実情です。

前編(民主的にお互いに学び合うという場)の記事では、スウェーデンの生涯学習を支える「スタディーサークル」の概要について伺いました。今回の中編では、「スタディサークル」の社会的な位置づけや、運営していくための財源などについて、スタディーサークルを支えている「スウェーデン成人教育協会」のヨーラン・ヘルマン氏から伺います。

移民の社会統合をも担う、スタディーサークル

「スウェーデン成人教育協会」の事務所内の様子(「スウェーデン成人教育協会」の事務所内の様子)

ヨーラン:民主主義の視点からいえるのは、スウェーデンのスタディーサークルは、スウェーデンの民主主義社会を作るのに不可欠な役割を果たしています。それこそ、スタディーサークルが最初にできたときは、「フォーマルな教育(学校など)」にアクセスが無い人たちのためにできました。今日においても、そのような課題と向き合っているのがスタディーサークルであります。

それこそ、最近でいうと移民問題ですね。日本とは違って、スウェーデンは移民・難民を多く受け入れてて、まだスウェーデンの社会に言語の壁とかもあったりして、馴染めてない人たちだったりとかが多くいます。そういう人たちへの支援をしているのがスタディーサークルです。

色んな団体が支援をしていて、それこそスウェーデン語を教えたりもそうだし、スウェーデン社会に馴染む為はどうしたら良いかを教えたりだとか、伝統的な家族の考え方―例えば中東での家族のあり方や、母親の役割はスウェーデンの考え方と全然違ったりするでしょう。

そのような文化的な差異によって生じる葛藤などを、尊重しつつ解消していく、ということもスタディーサークルが担っている活動です。

YECのみなさん(視察参加者):移民の人たちは、そもそもスタディーサークルの存在を知らないかも知れないし、自分から参加するかも分からないじゃないですか?自発的に参加する人たちだけだと取りこぼしがあるんじゃないかと思うのですが、そういう人たちを巻き込むために何かしていることはあるんでしょうか。

ヨーラン:スタディーサークルが色んなところで起きていている訳ですが、移民の人が多い社会の中でもスタディーサークルは起きています。その中で活動を共にしていく、ということもあります。

例えば、スウェーデン語を教えるとかもそうですが、ユースセンター・児童館などに色んな若者たちが来る訳です。そこに移民難民の人たちも来るから、そこで一緒に音楽活動などをして、活動を共にし、その中で人がどんどん繋がっていく、ということをボランティア団体がやっています。

その中で、スウェーデン語があまり上手くない子がいたりしたら、「スタディーサークルというのがありますが、そこで一緒に勉強しませんか?」という感じで誘ったりして参加することがあります。それこそ、特に難民の人たちは、政府への信頼感が無いのです。戦争で抑圧されて来たので。

だからボランティア団体は政府じゃないから信頼できる、だからボランティア団体がこれを担って、スタディーサークルへ繋げていく、ということをしているのです。

スウェーデン政府がスタディーサークルに予算をつける理由

ヨーラン:財源の話になりますが、スタディーサークルに拠出されるお金の6割が、国と地方自治体から来ています。それこそ、国がスタディーサークルにお金を付けているのは、政府が現場でできないことができるからです。6割の財源が国からきており、残りの4割は、スタディーサークルに参加している人たちからの参加費です。

色んなスタディーサークルが立ち上がって、たとえば、若者で雇用支援や教育が必要な若者たちの支援をしたいとなった場合、そのための財源を出すことがあります。また、EUから出ているお金もあります。これは、スタディーサークルではない、別の場所から出ているお金になります。スタディーサークルが、更にそういう活動をするとなった場合、別でお金をもらいにいくこともできます。

一番大きなスタディーサークルとボランティア団体の違いは、スタディーサークルの方が安定的な財源があることです。それこそこういう大きな組織があるわけですから。

スカンジナビアの、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、これらの国でスタディーサークルがありますが、その中でも特にスウェーデンがお金をちゃんと付けて活動しています。アイスランドは似たような形態の組織はあるが、規模はそこまででもないです。

政府予算の配分の基準はどうなっている?

YECのみなさん(視察参加者):国や地方自治体から来るお金が、それぞれ特色があって政治や宗教と結びつきがあるスタディーサークルもある中で、どう分配しているのでしょうか?偏りがあるのでしょうか?

ヨーラン:だからスウェーデンには、民衆教育諮問委員会 (Folkbildningsrådet)という委員会があって、そこがお金の配分を決めています。どの学習協会にいくら配分されるのか、というのを決めていますが、それで基準になっているのは、どれだけの人数の人が加盟しているのかとか、何箇所の支部があるかとか、そういう数値的なものになっています。考え方や、主義・信条で決めたりはしません。

お金がかなり出るので、「ボランティア」では無くなっているのではないか、という面もあるのではないかとも考えます。

YECのみなさん(視察参加者):政府から資金がもらえるから「ボランティア」ではなくなってきているのですよね?

スタディーサークルを支える4つの原則とは?

ヨーラン:スタディーサークルは、普通の学校教育などとは違って、政府のものでは無いですよね。ここの大きな違いの話になりますが、政府から学習協会への要請が4つあります。

その1つが民主主義を発展させ強くしていくこと、2つ目は教育の質を高めること、3つ目は人々をエンパワメントして社会参加を促していくこと、4つ目が、文化的な活動を人々の中に広めていくこと、この4つの原則があります。

これらをどのようにやるかとか、具体的に何をするかというのを規制していませんし、決められてもいません。これらさえ満たせば、自由にやっていいよということになっています。だから学校教育だったら、どういうカリキュラムでやるかが決まっていますが、学習協会では決まっていないから、比較的自由にできます。

YECのみなさん(視察参加者):4つの原則に基づいてそれぞれのスタディーサークルが自由に活動をしているということですよね。

ヨーラン:政府機関やNGO等の多くの他の団体は、学習協会のことを羨ましいと思っています。なぜなら、特に規制も無いし、自由度が高いからです。そうなっているのは、スウェーデンの社会の中でやっぱりこのスタディーサークルが大事にされているからだと思います。

それこそ、このような学習形態というのはすごく大事で、約30%となる高校などの学校を辞めた人たちの受け皿になっています。

※元の記事:生涯学習社会スウェーデンを支える北欧の伝統「スタディーサークル」とは何か?

Author:両角達平
88年、長野県出身。研究者。ストックホルム大学院教育学研究科 (国際比較教育専攻)修士。国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター (研究員)、文教大学・駒澤大学・東京女子大学(非常勤講師)、静岡県立大学国際関係学研究科 CEGLOS客員共同研究員。2012年からスウェーデンの首都ストックホルムに留学。以降、視察コーディネートや翻訳、記事執筆、独自調査に携わる。ヨーロッパで訪問した団体の数は100以上。新卒でドイツの若者政策の国際NGO Youth Policy Press(ベルリン)に勤務。その後ストックホルム大学教育学部 (国際比較教育専攻)修士課程を修了。現在は、関東の研究機関と大学で勤めながら、通訳、講演、執筆活動などにも従事。著書に「若者からはじまる民主主義-スウェーデンの若者政策」。
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