初等教育

学級崩壊を招く「小1プロブレム」(小1問題)とは?-五校に一校の小学校が直面する「大きな段差」の実態

小学1年生

「小1プロブレム」(小1問題)とは何か?

全国で100万人を超える子ども達が今春から新一年生として小学校生活をスタートさせます。一番入学者の多い東京都では、9万3,800人余りが入学します。これからはじまる6年間の小学校生活に親も子も期待と不安が入り混じった気持ちを抱えているのではないでしょうか?

最近、「小1の壁」という言葉をよく耳にします。保育園などでは、夜の延長保育があったのに対して、小学校へ入ると学童クラブで預かってくれる時間が限られ、働き方を見直す必要が出てくるため、「小1の壁」と言われるようになりました。

では、「小1プロブレム」という言葉はご存じでしょうか?保育園・幼稚園から新たに小学校へ入学した子ども達が集団行動を上手く取れない状況を言います。

例えば、学級全体での活動で、「授業中に立ち歩く・教室を勝手に出ていってしまう」、「先生を無視する・授業を妨害する」というような自分勝手な振る舞いをとってしまう児童が増えており、「小1プロブレム」という言葉が用いられるようになりました。このような現象は、1990年代からすでに指摘されはじめ、近年では全国的に問題視されるようになりました。

今回の記事では、「小1プロブレム」の実態と現状についてデータを交えてご紹介し、行政・家庭でどのような対応が有効なのか検討したいと思います。

「小1プロブレム」(小1問題)の実態・現状は?

「小1プロブレム」は、実際のところどのくらいの頻度で生じているのでしょうか?

東京都では、平成22年より本格的な調査を行い、平成25年に調査結果を発表しています。(東京都教育委員会:小1問題・中1ギャップの予防・解決のための 「教員加配に関わる効果検証」に関する調査 最終報告書について)この調査では、「小1プロブレム」の定義を下記のように定めています。

「第1学年児童の不適応状況」の定義

第1学年の学級において、入学後の落ち着かない状態がいつまでも解消されず、教師の話を聞かない、指示通りに行動しない、勝手に授業中に教室の中を立ち歩いたり教室から出て行ったりするなど、授業規律が成立しない状態へと拡大し、こうした状態が数か月にわたって継続する状態をいう。

このような状況にある児童の数についての調査では、平成20年度~24年度で約20%前後を推移しています。約5校に1校の割合で、「小1プロブレム」を経験していることになります。第1学年児童に不適応状況が発生した学級の割合から見ても約10%にあたり、東京都内で1年生の学級の約1割で「小1プロブレム」が生じています。

東京都教育委員会:小1問題・中1ギャップの予防・解決のための 「教員加配に関わる効果検証」に関する調査 最終報告書について

いつ頃から第1学年児童の不適応状況が発生する割合が最も大きいのは「4月」であり、次いで大きいのが「5月」であることがわかります。また、この他に、「6月」と「9月」も不適応状況が発生する割合が比較的大きいことがわかります。この調査は、東京都のものですが、全国的にも似たような傾向があることが予想されます。

東京都教育委員会:小1問題・中1ギャップの予防・解決のための 「教員加配に関わる効果検証」に関する調査 最終報告書について

「小1プロブレム」(小1問題)は、なぜ起こるのか?

「小1プロブレム」が起こる原因は、一つに断定することは困難です。「家庭や地域の教育力の低下」、「小学校教員の指導力の低下」など様々にその理由が言われていますが、主に保育園・幼稚園と小学校との接続の問題として捉えられています。保育園・幼稚園と小学校の学習形態や指導方針にギャップがあり、「大きな段差」となっていると言われています。

保育園・幼稚園が主に遊びや体験をベースとした情操教育が行われていることに対して、小学校では学習を重視した座学中心の指導が行われており、新小学1年生になる子どもが受けるカルチャーショックが大きく、適応し難いという指摘です。

「今にはじまった話ではないじゃないか?」と言われてしまいそうですが、幼稚園教育要領が約25年ぶりに改定され、「自由遊び」が尊重されるようになりました。その指導の変更による影響を指摘する方もいます。

また、幼稚園は義務教育ではありません。ですから子どもたちの中には、幼稚園・保育所に行っていない、小学校が初めての集団生活という子がいるかもしれません。いずれにしても、子どもにとって、小学校に入学するということは大きな生活環境の変化となり、適応までに丁寧なフォローが必要となることは間違いありません。

「小1プロブレム」(小1問題)を予防する対応策は?

学校に咲く桜

各地の自治体でも「小1プロブレム」に対する対応が行われています。一番多く行われているのが、幼稚園と小学校との子どもや教員の相互理解を図ることを目的とした交流プログラムの実施、「スタートカリキュラム」といった小学校に入学した子どもたちが小学校に慣れることができるようにするためのプログラムの実施があげられます。

交流プログラムに関しては、あくまでも公立幼稚園・保育園と公立小学校との連携であり、圧倒的に数の多い私立幼稚園・保育園との交流はまだ十分には図れていないというのが現状です。また、後者に関しては、小学校での負担が大きくなってしまい、そのような特別なカリキュラムを実施できている自治体はまだ少ないようです。

効果検証が行われているケースとしては、東京都の事例があります。小学1年生のクラスに対して、一クラスの子どもの人数を減らす「学級規模縮小」や一クラスに複数の指導者が関わる「ティーム・ティーチング(TT)」のいずれかを行い、教員一人あたりで受け持つ子どもの人数を減らすことによって、対処・予防することができたと報告しています。

教員からも「児童一人一人の指導や評価等がきめ細かく行えるようになったため 、基礎学力の定着や 学習習慣の確立を実現させることができた。」、「突発的な事故や児童の指導に対しても、教員同士が個と全体を分担して対応することで、安全の確保と指導の充実を図ることができた。」というような声があったようです。

保育園・幼稚園、小学校での努力も必要なことは間違いありませんが、各家庭でも移行期間に向けた準備は必要です。就学後に慌ただしくならないように、就学前の時点で小学校の説明会などに参加し、入学後の生活状態に関する情報を得ておくことはとても有意義です。

早寝・早起きの生活のリズムを整え、時間感覚・切り替えも徐々に身に着けていくことができるようにしましょう。また、翌日に着る洋服や持ち物を自分で準備したり、和式のトイレの使い方なども機会のある際には練習しておくのも有効的です。

小学校から中学校、高校から大学、大学から就職などこれまでと異なる生活環境に入ることは、誰であっても不安を感じるものです。学校や家庭の双方が協力し合い、子どもの新しいスタートをみんなで支えていくことが何よりも重要だと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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