教育格差

低所得家庭の子どもほど体験の貧困に!物価高騰で体験格差が広がる危機-子どもの「体験格差」実態調査・中間報告(チャンス・フォー・チルドレン)

ピアノをひく女の子

近年、子どもの成長や発達において、多様な体験から非認知能力を伸ばすことの重要性が示唆されている中、民間団体の行った全国調査で「経済的に厳しい家庭の子どもの約3人に1人が、学校外の体験機会が何もない」「低所得家庭の子どもの約2人に1人は、経済的な理由からやってみたい体験ができなかった」という子どもの体験格差の実態が明らかになりました。

経済的な困難を抱える子どもたちに対して、塾や習い事、体験活動などに利用できる「スタディクーポン」を提供している公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(以下、CFC)は、2022年12月15日に子どもの「体験格差」実態調査に関する中間報告(速報値)を公表しました。

本調査は、2022年10月に全国の小学1年生~6年生の子どもがいる世帯の保護者を対象に、インターネット上で回答する方式で行われ、2,097件の回答がありました。これまでに子どもの「体験格差」に焦点を当てた調査は行われておらず、今回が全国で初めての実態調査となります。

本調査での「体験活動」は、特に「学校以外の時間(放課後)に行う体験」に焦点を当てたものとなります。

調査結果①:経済的に厳しい家庭の子どもの約3人に1人が、学校外の体験機会が何もない(=体験の貧困)

学校外で行う体験活動(習い事やクラブ活動、自然体験や文化的体験等)への参加状況について調べたところ、世帯年収300万円未満の子どもの約3人に1人が、1年を通じて「何もしていない」ことがわかりました。世帯年収600万円以上の家庭と比較すると、2.6倍の差がありました。

家庭で体験活動にかけている年間の支出を見ると、世帯年収300万円未満の家庭の子どもの学校外の体験活動にかける年間の支出は、世帯年収600万円以上の家庭と比較して2.7倍の差がありました。

<保護者からの声・自由記述の一部>

やりたいと言われても、どれも、経済的に無理なので、子供自身が、無理だよねって、何も言わなくなりました。 だんだんわかる年齢になり、子供なりに我慢しているようで、申し訳なく思っています。(愛媛県・小学4年生保護者・40代女性)
母子家庭のため、周りの友達と同じように色々な習い事をさせてあげることができず悔しい。 スイミング、ダンス、英会話、ピアノ、したいことをたくさんさせてあげたかった。(新潟県・小学2年生保護者・20代女性)
野球チームに入らせてあげたいがひとり親の為経済的に余裕がなく道具やユニフォームが用意してあげられなかった(神奈川県・小学4年生保護者・50代女性)

調査結果②:子どもがやりたい体験を「経済的理由」でさせてあげられなかった割合は、世帯年収の多寡で3倍以上の格差

子どもがやってみたいと思う学校外で行う体験活動をさせてあげられなかった理由については、「経済的余裕がないこと」を理由としてあげた割合が、低所得世帯で56.3%と、約2人に1人にのぼりました。

世帯年収が低い家庭ほど、「経済的理由」で子どもがやってみたい体験をさせてあげられなかったと回答した割合が高く、世帯年収600万円以上の家庭と比較すると、3倍以上の差が生じています。

世帯年収300万円未満の家庭が、子どもに体験をさせてあげられなかった理由は、経済的理由の他にも、「保護者の時間的余裕がない(51%)」、「近くに参加できる活動がない(26%)」「精神的・体力的余裕がない(20%)」など、多様な背景があるとしています。

調査結果③:物価高騰により、特に経済的困難を抱える家庭で子どもの体験機会が減少している

物価高騰による体験活動への影響については、世帯年収300万円未満の家庭のうち、物価高騰の影響で子どもの体験機会が減少したと回答した割合は、世帯年収600万円以上の家庭の2倍以上となっています。

世帯年収300万円未満の家庭の約2人に1人(50.6%)が、物価高騰の影響で子どもの学校外の体験機会が減少した又は今後減少する可能性があるとしています。

物価高騰の影響は、子どもの体験機会だけでなく、学習機会の減少にもつながっていますが、世帯年収300万円未満の家庭の物価高騰による「体験機会への影響」と「学習機会への影響」を比較すると、「体験機会への影響」の方が減少幅が大きくなっています。有事があった際には、子どもの教育において、学習よりも体験の機会の方が影響を受けやすい状況がわかりました。

調査結果④:現在の経済状況が厳しい保護者ほど自身が小学生だった頃の体験機会が少ない

保護者の小学生の頃の学校外での体験については、現在の世帯年収が低い家庭の保護者ほど、自身が小学生の頃に学校外の体験活動を何もしていなかった割合が高くなっていることがわかりました。親の子どもの頃の経験が子どもの体験にもつながっている可能性があるとしています。

調査結果を公表した記者会見の中で、CFCの代表の今井氏は、「学校外での体験は、子どもの自信や意欲を育む機会、学び方を学ぶ機会、他者と繋がる機会にもなっており、とても大切な成長の機会となっている」と体験の重要性を指摘する一方で、これまでの支援活動の中で、「経済的な理由から『やりたいことをあきらめた』という声が届いており、親に遠慮している中で、『やりたい』と言えなくなる子どもたちも少なくない」と述べました。

今後、CFCでは、本調査について、子どもの学校外の体験を阻害する要因や、物価高騰が子どもに与える影響についてより詳細な分析を行い、自治体や地域のNPO等の団体、研究者が連携しながら、有効的な施策を検討したいとしています。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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