(フォーラムの様子。石巻市内の各地でこども食堂に取り組む「おっちゃん」「おばちゃん」からも、こども食堂の様子を伝えていただいた。今回のフォーラムではこども達に実際に語ってもらう機会が作れなかったので、次回こそはと思っています。)
2016年10月16日に石巻市内のある小学校を会場として、「いしのまきこども食堂フォーラム」を開催しました。石巻市内でもこども食堂が少しずつ広がっていく中で、その意義について改めて考えたいと思ったからです。
石巻地域で「こども食堂」や「子どもの居場所づくり」に取り組んでいる、または取り組もうと考える地域住民、NPO、民生委員、行政関係者の方々にお集まり頂きました。
「ていざんこども食堂」のユニークな運営体制
主催となった「ていざんこども食堂」は、全国的にみても非常にユニークな運営体制で行っています。
地域住民が「調理」や「こどもとの関わり」というスタッフ機能を担い、学校がこどもたちへの周知・広報機能を担い、社会福祉協議会が地域福祉や他地域展開の視点で運営に関わり、NPOが食材やお金のご寄付の管理などの事務局機能とこども・家庭福祉の視点で運営に関わるという4者協働での運営体制です。
いわゆる「貧困」も含めた、特に個別支援が必要なこどもたちをどうやって支えたらいいのかという視点もそうですが、それ以上に「どんなこどもであっても、地域のこどもたちは、地域で支える、育てる」という地域のみなさんの深い愛が運営のベースにはあり、4者で頭をひねりながら運営しています。
(ていざんモデル。スタートのきっかけは「夜の支援」の必要がある子どもとの出会いと、地域の皆さんが「地域にいるすべての子どもたちを支えたい」という思いが融合したこと。)
例えば、こども食堂は夜に開かれることが多いのですが、その場合、基本的には「親御さんが送り迎えをすることができる子ども」以外は参加することが出来ません。夜道の安全を考えると、そうせざるを得ないのです。
しかし、ていざんこども食堂では、親御さんが深夜まで働いているなどお迎えに来ることができない子どもたちは、地区をよく知る地域住民の皆さんが自宅まで徒歩で送迎をしてくれます。地域ならではの強みです。
ちなみに、運営にあたっては助成金や補助金は一切利用せず、地域の「おっちゃん」「おばちゃん」のお金の寄付(1回につき1人300円くらいの活動費。それ以外にもご寄付を寄せてくださる方々がいる。)と、食材の寄付(野菜、お米などで、石巻市外から送ってくださる方もいらっしゃる。最近では、地元スーパーのご協力も得ている。)で運営を賄っています。どうしても購入必要なものは購入しますし、赤字が出た場合はみんなで「えいっ!」と補てんし合っています。
こども食堂がもつ「場」としての力
さて、話を戻しますが、フォーラム内では、実際に参加してくださっている地域住民の皆さんからも、ご発言を頂きました。
「近所で会うと『ねえねえ、次のこども食堂はいつなの?』と声をかけられた。今までは知らないおじさんだったのが、こども食堂で会っているうちに、仲良くなれた。」
「あるとき、子ども食堂で包丁の使い方を注意したら、むつけてしまい、目を合わせてくれなかった子が、たまたま道端であったときに『カレーのおばちゃん!』と声をかけてもらった。一緒にいたお母さんに、『この人、カレーのおばちゃんだよ』と紹介してもらった。」
「抱きついてきたり、おんぶを求めてきたり。『まずくて、食えない!』なんか憎まれ口を叩いたり、ワガママもひどかったり、元気も良すぎてすごく大変だけど、素直な子たちだなぁと感じる。」
次回のこども食堂を心待ちにしている話や、こども食堂で出会った児童から「カレーのおばちゃん」と道端で声をかけられた話からは、いかにこどもたちにとって、こども食堂が大きな存在になっているのかを伺わせます。
以前の記事でお伝えした、「場」の力の1つだと思っています。
一方で、印象的だったのは、石巻市内の他地域も含めたこども食堂に参加されている住民さんたちの口から語られた、子どもたちのエピソードでした。
「食堂の中で、いつも『かまって!かまって!』でちょっと気になる男の子がいて。ひとり親のご家庭だと聞いていたので、実際に出会った親御さんの様子と、普段の男の子の様子をみると・・・ちょっと心配だね。」
「家に帰るとね、たまに酔っ払ったお父さんが物を投げてきたり、投げ飛ばされたりするのが怖くて、布団にくるまって隠れてることがあるんだよ。」
「お母さんが全然帰ってこないから、妹と2人でずっと起きていて、12時過ぎることもあるんだよ。暗いと怖いから、テレビをいつもつけっぱなしにしてるんだよ。」
先ほどのエピソードに加えて、これらの呟きも石巻市内のこども食堂で、住民さんが耳にしたつぶやきです。
しかし、これは決してこども食堂だからのつぶやきではありません。
例えばプレーパークの「場」で、例えば学習支援の「場」で、こども自身にとって、その「場」が安心・安全を感じられる場になっていて、信頼できるおとながいるということ。
こどもが思わずつぶやいてしまうような「場」になっていれば、自然と聞こえてくる声だと思っています。(もちろん、そんな「声」を聞き出すことを前面に押し出している「場」はこども目線で考えれば、お断りですが・・・)
こども食堂も含めた「場」。この「場」の価値を認めながら、さらにその先に進むためには、この「場」で見えたこと・聞こえたこと・感じたこと、こどもたちからのサインに対して、次のアクションが起こせるかどうかです。
(湯浅誠氏の記事で示されている「共生食堂」「ケア付食堂」の食堂の整理とともに、各支援とのつながりを意識してみたい。地域にある資源同士が、「顔」の見える関係になっているかが鍵だと思う。)
「こども食堂」という支援のスタートライン
スクールソーシャルワーカー、ケースワーカー、児童相談所、民生・児童委員、学校、スクールカウンセラーなどなど。昨今では、子ども・子育て新制度がスタートし、地域子育て支援拠点事業や利用者支援事業、これらを包括した「子育て世代包括支援センター」も生まれています。公的な機関の他にも、民間のNPOやボランティア団体など、こども・子育てを取り巻く社会資源が地域にあります。
これらの地域のネットワークの中に「場」を位置付けられているかどうか、デザインができているかどうかが、「こども食堂」も含めた「場」のその先へ・・・なのではないかと思います。
現に石巻地域には40団体近く(当法人調べ)の子ども・子育て・若者に関わる民間団体があり、公的な機関と合わせて貴重なつなぎ先であり、つなぎ手になっています。当法人にも、スクールソーシャルワーカーなどの機関に加えて、プレーパークや子育て支援拠点などからも、ケースが繋がってきます。
一方で、公的な機関の他に、社会資源に乏しい地域もある。「この子にとって、こんな活動があったら良いのに・・・」と思われる地域もきっとあります。「こども食堂」での気づきをきっかけとして、あるべき活動を自ら生み出していくような、そんな出発点になることも、その先へ・・・なのではないかと思います。
さらに言えば、「こどもたち」だって立派なプレーヤーです。こどもたちの「やりたい!」に耳を傾け、そっと背中を押し、応援することも、その先へ・・・なのかもしれません。
もちろん、この全てを誰か1人で背負うことはありません。地域にいるたくさんのプレーヤーを巻き込み、一緒に立ち上がることで、きっとその先へいけるのではないでしょうか?
ある日の「こども食堂」の振り返りで、とある住民さんがこんな話をしてくれました。
「ある日の朝にね、ゴミ出しをしていると、いつもこども食堂にきてくれている子どもと、そのお父さんと会ったのね。『おはようございます』と挨拶をしたら、『息子がいつもこども食堂でお世話になっています。普段、帰りが遅いので、月に1回だけでも、こども食堂があると本当に助かっています。ありがとうございます。』とお話されたのね。そんなことを聞いて、私にももっと何かできないかなぁと思って。」
「こども食堂」をきっかけにして、地域の中に子ども・子育てを支える市民がどんどん立ち上がっていけば良いなぁと思います。「こども食堂」は、支援の出発点であり、スタートラインです。
1989年生まれ、宮城県石巻市出身。石巻圏域子ども・若者総合相談センターセンター長。早稲田大学大学院教職研究科修士課程修了。東日本大震災で故郷が被災、2011年5月にTEDICを設立(2014年にNPO法人格取得)。貧困、虐待、ネグレクト、不登校、ひきこもりなど様々な困難におかれる子ども・若者に伴走しながら、官・民の垣根を超えて、地域で育んでいく支援・仕組みづくりに取り組み、主に困難ケースへのアウトリーチを中心に子ども・若者に関わる。