学校教育の課外活動として、栃木県那須町で登山の訓練を行っていた高校生たちが雪崩に巻き込まれて8名が亡くなるという大変に痛ましい事故が起こりました。事故後、引率した教員の安全管理に問題があったとして民事・刑事の双方から責任が問われています。
このような野外活動・自然体験に関する事故というのは、今回の件だけの話ではありません。夏場になれば、毎年必ずといっていいほど、川や海での事故が起こっています。海、山、川など様々なフィールドで、年に何度も大小問わず様々な事故が起こっていると考えられます。
(小学校の移動教室で登山に引率した際の様子)
学校教育の一環として、野外活動・自然体験が行われるケースは珍しいことではありません。今回のように特定の部活に所属していなくても、小学校の臨海・林間学校や移動教室、中高生の修学旅行などの宿泊行事は、一般の児童・生徒が参加する形で広く行われています。
これまで長く野外活動・自然体験に携わり、たびたび学校で行われる宿泊行事に引率指導した経験から、学校教育の中で野外活動・自然体験が行われることの教育的な意義や効果を認めつつも、学校教員のみで実施する体制は危険だと考えています。
野外活動や自然体験は、学校教員にとって全くの専門外
学校教員が持つ専門性は、主に児童・生徒に対する教科指導・生活指導に関するものです。大学での教員養成課程においてもこの点が重視されています。
一部校外学習などもありますが、基本的に学校・教室内での指導が前提となっています。運動などを行う授業の体育や学校行事の運動会などは、座学の授業よりもリスクは高くなりますが、あくまでも管理された施設内であり、万が一の場合の対応もとりやすい環境下での指導となります。
様々な自然環境の中で行われる野外活動・自然体験は、至るところに危険があり、常に天候や気候も含めて変化が伴う環境です。万が一の時も迅速に医療機関につなげる環境とも限りません。
「毎年やっている場所だから大丈夫!」というようなことを言う方もいらっしゃいますが、それは全く自然に関して知識のない方がおっしゃることで、例え同じ場所・時期であっても、いつも同じ状況・環境であるとは限らないのです。
野外活動・自然体験を専門的に行っている方は、自然環境における「不確実性」について十分に心得ており、現地に滞在しながら軽微な環境の変化にも配慮し、何度も繰り返し調査等を行っています。
一定のリスクのある自然環境の中で、個人の趣味で行う場合と、人の命を預かって指導を行うガイドやインストラクターでは、全く判断の厳密さが違います。根拠に基づき客観的な指標を設け、リアルタイムにチェックし、一定基準を超えていれば必ず活動を中止します。躊躇なく「やめる・引き返す」という冷静な判断ができなければ、野外活動・自然体験における指導はできないのです。
自然の中で人命を預かるには不十分な体制
これまでに学校や教育委員会に依頼を受けて、いくつもの学校の野外活動・自然体験を含む宿泊行事に引率しました。
実際にどのように先生方が校外での宿泊行事などに対応されているのかというと、これまでの自身の経験や学校内の引継ぎを受けて、何とか対応されているのが実情です。
特に野外活動・自然体験活動に関する安全管理の研修が行われているわけではありません。こういった活動が好きな先生は、ご自身の趣味などで勉強されたりしていますが、そんな教員ばかりではありません。
野外活動・自然体験などについて、全く知らなくても学校教員になれます。以前、現場で「若いというだけで、宿泊行事を任された!」という話を聞いたこともありました。やらなければならない学校行事だから、特定の教員頼みで毎年綱渡りのような状態でやっているという場合も少なくありません。
冒頭の雪崩事故についても、登山経験がない教員がラッセル訓練の引率者として先頭班に配置され、事故で亡くなられています。
組織的・体系的に研修を行っている地方自治体もあるかもしれませんが、それも一部であり、自然の中で人命を預かって指導を行うには不十分です。
また、野外活動・自然体験を安全に実施するためには、学校教育のような児童・生徒対教員の比率で行うことはできません。予測できない動きをする可能性がある「自然」と「子ども」という2つの要素が掛け合わさっていることを前提に考えます。
全体が大人数であったとしても、少人数のグループに分けて、万が一の際に指導員一名だけで対応することは困難なため、それぞれに複数人の指導員がついて安全上の確認を行います。年齢や実施する内容によっても変わりますが、通常の学校教育よりも人的なコストをかけることは必要不可欠です。
外部の専門家との連携した実施体制に
学校外で行われる野外活動・自然体験は、そういった活動や体験を希望する子どもが主に集まります。学校教育で行うことは、必ずしもそういった活動が好きな子・得意でない子たちも参加します。野外活動・自然体験における教育効果は、好き嫌いに関係なく有意義なものです。
しかしながら、学校教員が持つ専門性は野外活動・自然体験を行うものとは全くの別ものです。ただでさえ非常に多忙な学校教員に対して、専門外の野外活動・自然体験で必要な知識や技術を求めること自体そもそも無理があることです。多かれ少なかれ身体・生命に関わるリスクがあるため、専門性をもった団体・法人と連携して実施する必要があります。
文部科学省でも同様に重要性を示唆しつつ、外部の専門家との連携を推奨しています。野外活動・自然体験をよく理解している専門家、子どものことについてよく理解している専門家の教員が連携することで、安全で効果的な教育活動にすることができるのではないでしょうか?
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。